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「トロルハウエンの結婚記念日(トロルハウゲンの婚礼の日)」 (1)

追記(2015年6月16日)
この記事でTroldhaugenを「トロルハウエン」と表記していますが、その後現地のグリーグ博物館にメール・電話等で問い合わせて、「トロルハウゲン」(もしくは「トロールハウゲン」)と表記するほうが適切だと考えるようになりました。
「トロルハウエン」と書いた理由は下の記事中に書いてありますが、現在この表記はベルゲン市立図書館のページでも使われていないようです。この記事を書き直すことはしないでおきますが、ご注意ください。
また、「(トロルハウゲンの)婚礼の日」という楽曲タイトルについてですが、個人的には「婚礼の日」という通常の訳は曲の解釈に際して誤解を与えるおそれがあると考えています。理由は下の記事に書いてあるように、この曲の本来のイメージは「婚礼の日」ではないと考えられるためです。
ただ、では「結婚記念日」という訳がよいかとあらためて考えると、判断が難しいところがあります。この曲に御興味をお持ちの方は、この記事やグリーグ関連の書籍などをお読みになられて、タイトルや曲の内容・解釈に関してそれぞれに御判断をなさることをおすすめいたします。
 



今、「トロルハウエンの結婚記念日 Bryllupsdag paa Troldhaugen」に、こっています。
へたながらもピアノで弾いたり、CDで聴いたりと、1曲で6分くらいの短い時間ですが楽しんでいます。


御存じの方もそこそこいらっしゃると思いますが、
「トロルハウエンの結婚記念日」は、グリーグのピアノ曲集『抒情小曲集』の第8巻(作品65: 1897年出版)の第6曲で、
グリーグのピアノソロ作品の中では、同じく『抒情小曲集』の中の曲である「春に寄す」や「夜想曲」などと並んで、有名な曲とされています。アマチュアピアニストに人気があるのだそうです。
もっとも、私は、自分で楽譜を買って弾いてみるまでは、耳にしたことがありませんでした。


トロルハウエン Troldhaugen は、グリーグ夫妻がノルウェーのベルゲン郊外の入江のほとりに新居を建てた時、その一帯に付けた名前(だそう)です。
ノルウェー語で trold は「妖精(トロル)」(いまは troll と綴る)、haug は「丘」を指します。語尾のenは定冠詞だと思います。で、Troldhaugen、「トロルヶ丘」。


グリーグの伝記で伝わるところによると、
「トロルハウエンの結婚記念日」は、もともとのタイトルは「お祝いの人たちがやってくる! Gratulantene kommer」というもので、グリーグが奥様のニーナさんへ結婚記念日のプレゼントにと作ったのだそうです。また、出版の前年の1896年にはグリーグ夫妻のお友達の誕生日プレゼントにこの曲の手書き稿が贈られたそうです。
出版の5年前の1892年にグリーグ夫妻の銀婚式がトロルハウエンで盛大に祝われており、グリーグはとても感激したようで、その時の様子をこまかく記して外国の友人に送った手紙が残っているそうです。
この曲は、その銀婚式の日の思い出をそのまま音楽にしたような曲で、にぎやかなお祝いの雰囲気をほうふつとさせます。また、曲の中間部では、美しい風景を眺めながら二人の若い頃を回想しているような、ほろ苦くも夢見心地の時が流れていきます。

..という曲なのですが、
練習を始めた頃は、ずいぶんとバタバタした曲だなあ、などと思ったりしてました。厚い和音の連打が多いのです。
中間部も、歌い方がよくわからず、弾きづらく感じていました。
そんなこんなで、グリーグのピアノ作品の中では、どちらかというと遠ざけていたほうでした。

それがこのごろ、
この曲がもっとのびやかな曲に感じられてきました。
何のせいなのかよくわからないのですが、
おととし買った、ノルウェーのピアニスト Audun Kayser のCDで、この曲をのりのりで弾いているのを、くり返し聴いたせいかもしれません。
そうすると(なのかどうかわかりませんが)、自分で弾く時にも少し軽みが出てきて、
すると今度は妙に楽しくなり、
このごろでは、なかなか指や手首をうまくコントロールできないながらも、気持ちは軽やかに、ポンパパパンと弾いています。


グリーグは最晩年にこの曲の一部を自分の演奏で録音しています。
ノルウェーのレコード会社がそれをCDに復刻していて、すごいノイズ混じりですがそれを聴くことができます。グリーグの自作自演についてはいつかあらためて書いて載せるつもりです。


作品紹介や演奏紹介ができる器は自分にはないと思っていますが、
ある程度のことは載せないと..とも思って、むずかしく感じます。
この曲については、出ているCDで持っていない物が多くて、
おすすめ、というのは言えそうにないです。
上に書いた Audun Kayser のCDは、自分としては好きなのですが、
入手しにくいです(ネットでなら通販という手段はありますが: 私は「ノルディックサウンド広島」で買いました)。また、好みが分かれるにちがいないと思います。
聴き知っている中から挙げるなら、
東芝EMIから国内盤も出ている、ヴァルター・ギーゼキングの演奏が、
グリーグ作品の昔の演奏の雰囲気をとどめていて、いいと思います。
ギーゼキングの、メンデルスゾーンとグリーグの作品の演奏を収めたEMIの輪入盤には、この曲のもっと古い時期の録音も収められています。それも楽しいです。


なお、この 曲名「トロルハウエンの結婚記念日」ですが、
ふつうは「トロルハウゲンの婚礼の日」あるいは「トロルドハウゲンの婚礼の日」と表記されています。
私も「トロルハウゲンの..」と呼んできたのですが、
先日、検索エンジンでみつけたベルゲン市立図書館のグリーグ・コレクションの日本語ページで、
「トロルハウエン」と書いてあるのを見ました。
そうしてみると、私のわずかばかりのノルウェー語知識でも、..ハウエンのほうが実際の発音に近いのでは、と思えてきて、
ベルゲンでそう書いているなら、では今回はそう書いてみようと、ここでは「トロルハウエンの..」としてみました。
「結婚記念日」も、そのほうが曲の意味に合うのではと思って、そう書いてみました。
通常使われているタイトルと違うタイトルで呼ぶというのは、それ自体ちょっとどんなもんかなという気もしますし、
ネット上だと、検索にかからなくなってしまうなど、不都合が生じる面もあると思いますが、
個人サイトなので、考えてみたことをなるべく考えたままやってみようと考えました。
そのへん御容赦ください。

もっとも、haugen が「ハウエン」なら、
Bergen も「ベリエン」なのでは...。
やっぱりわかりません。ごめんなさい。


長くなりました。 2001年05月15日


 

..「トロルハウエン」、書いてはみたものの、

...こういう記事を書きたいのではなかった、という気がしてきました。

たとえば、曲の紹介を書きましたが、
その曲が作られた頃のエピソードもさることながら、
曲の「感じ」について、
「この曲はこうこうこういう曲で..」と書くその書き方が、正しいのかどうか、
やっぱり疑わしく思えるのです。
あるひとつの曲、とされているものが、演奏者によって、演奏されるそのときどきによって、また聴き手のそのときどきによって、ちがうもののように(もっと言えば、ちがうものとして)奏でられ聴かれる、
そのとき、それはもう「ひとつの」曲、とは呼べないようにも思われるのです。
この曲はこういう感じの曲なんだよ、と、特定の言葉、特定の表現で語ってしまうと、
そうでなかったあのときのあの奏でられ、あの聴かれは、どうすればいいんだろう、そんなふうに思われてきます。

その曲を語る、のではなく、
あのときのあの奏でられ、あの聴かれを、
これからはなんとか書いてみたいです。

それがいいのかどうか、それもわからないですが。 2001年05月17日


 

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記事作成:さんちろく