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牛呼び唄 (Kulok) (19のノルウェー民謡Op.66-1)

昨年の年末、NHKのテレビでのど自慢の総集編かなにかの番組を放送しているのを見ていて、
のど自慢に出演した、北海道で酪農を営んでらっしゃる女性の方が、牛舎の前で仕亊着でインタビューに答えてらっしゃるのを見ました。
毎日、牛の世話をしながら演歌を歌っている、と話してらっしゃいました。
それをテレビで見ていて、ふと、グリーグの「牛呼び唄」を思い起こしました。

牛呼び唄 kulok はノルウェーの民謡によくある唄で、放牧で山野に散っている牛を「おーい、おいでー」と呼び寄せる唄です。
ノルウェーでも日本でも、いま「民謡」と名づけくくられている唄は、かなりの数、仕亊をしながら唄う唄、あるいは仕事の作業の一環で唄う唄、いわゆる仕亊唄です。
いま、ノルウェーではどうか知りませんが、少なくとも日本では、仕事しながら歌うのは歌謡曲、ということが多いように思います。歌う方々は、民謡のように、演歌を歌ってらっしゃるのでしょう。
歌はそんなふうに、暮らしながら歌われてきた。
牛舎で牛たちにえさをやりながら歌ってらっしゃるその方の様子をテレビで見ながら、
グリーグが作品化した牛呼び唄も、こういうふうに、状況が少しちがう
んですがそれでもなにか、こういうふうに、唄われてきた唄だ、ということを、ひしと感じました。
飼っている牛の姿、牛の顔を見ながら、唄った唄だ、と。
それをおいといて、少しばかりの間、その方の歌を聴きました。

「19のノルウェー民謡Op.66」は、ときどきここでも書きましたが、グリーグの友人やグリーグ自身がノルウェー山間部で地元の方の唄う唄を聴いて採譜し、それをもとにグリーグがピアノ曲に作品化したものです。
これの第1曲は牛呼び唄で、冒頭、低音部でニ長調の主和音(レ・ファ#・ラの音)が静かに鳴って、その上から、けっこう大きな音(mf)で、唄のメロディーが奏でられます。この部分が、「お一い、おいでー!」と牛を呼ぶ部分です。
わたしはこの曲を自分で弾く時は、このメロディーをあまり強くは弾いてきませんでした。全体がきれいな和音を作っていて、メロディーも響きの中に溶け込んだほうがよさそうな感じがしていました。
でも、そののど自慢のテレビを見た後、ここの部分は、遠くにいる牛に戻ってくるよう呼ぶんだよなあ、と思い直して、
タッチを違えて、遠くまで声が届くように、弾いてみました。
そうしたら、メロディーが、唄っているのが聞こえました。唄声に聞こえました。この曲で、自分で弾くのでは正直初めてでした。

mfで、そしてその後はp(弱く)になるので、想像するに、自分自身が唄っている声ではなく、牛飼いの人がどこかそう遠くない所で唄っている声、なのでしょう。
曲の最後、冒頭部の「おーいおいでー」が再び、こんどはpp(とても弱く)の指示で奏でられますが、これはきっと、ここからは見えないどこかで、別の牛飼いが唄っている声、あるいは、さっきの牛飼いが歩いていって遠くで唄っている声、なのでしょう。
ppでも、かぼそい音ではなく、きっと山野を飛び越えて、牛たちに届いていく、そういう声なのだと思います。 2002年02月12日


 

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記事作成:さんちろく