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「日本民謡大観」

日本の民謡も聴いています。まったく詳しくないのですが。

何年か前まで、NHKFMで、日曜のお昼前に10分間、
日本各地に伝わる(伝わっていた/唄われていた)民謡を現地の方々の唄で収録した、
その録音を紹介する番組がありました。
「日本民謡大観」という番組で、
都道府県ごとに、あるいはテーマごとに、各回3つほどの唄が聞けました。
小島美子さんが解説をなさってました。
いつもいつも聴いてはいなかったのですが、福岡県や九州各県の回とか、縁のある地方の回のときに、なるべく欠かさないように聴いていました。

わたしは民謡歌手の方が唄ういわゆる舞台民謡も聴きますが、
この番組「日本民謡大観」では、
民謡歌手や民謡名人でない、とくべつな訓練をなさってない(と思われる)方が、
仕事や遊びのときに唄う唄を、唄ってらっしゃるのを聴くことができました。
(その地方の唄の名人が唄ってらっしゃる録音ももちろんありますが)
そうした唄いは、地声だったり音程がとれてないように聞こえたりするのですが、
それがむしろ心に落ちていきました。

「日本民謡大観」は、わたしはもともと、本のかたちで知っていました。
昔、NHKが主体となって、日本各地に残る民謡をテープに収録するプロジェクトがあったそうで*1、
その成果が、『日本民謡大観』(編:日本放送協会)の名で日本放送出版協会から出版されています。
地方ごとの分冊で、全13巻あるそうです。各巻に、採譜された民謡の楽譜が何百唄も収められています。
また、現在出ている版には、掲載されている唄の現地録音を収めたCDがついています。

以前わたしが趣味で作曲をしていたころ(いまでもやめてはいませんが)、
九州の民謡に関心を持って、資料を調べたことがありました。
グリーグが母国ノルウェーの民俗音楽をもとにして作品を作ったのを知っていましたので、
自分でも、ここの土地の唄を知りたいと思ってのことでした。
民謡はその当時はそんなに聴いておらず、好きというのでもなかったのですが、
自分が住んでいる九州の唄なら、心に響くものがあるんじゃないかと考えていました。
そのときに、図書館で『日本民謡大観(九州北部篇)』の本を見つけました。
宝物を見つけた気持ちでした。
で、本を開いて見たのですが、
そのときのわたしには、そこに載っている民謡はこれまで耳にした他の地方の民謡とあまりかわらず、ふつうの日本の民謡で、とりたてて心に落ちてはこない、そんな感じがしました。
ただ、いくらか心ひかれる唄がいくつかあって、
それらは譜面を写して持ち帰り、ときどき口ずさんでいました。

そういうことで『日本民謡大観』を知ったのですが、
そのときに、
民謡はもともとその土地の暮らしのなかで唄われてきた、ということや、
この節回しがぜったいに正しいというような唯一の姿があるのではない、ということを
あわせて知りました。
それは、それまでのわたしの音楽のとらえ方--正しく演奏するとか、鑑賞するとか--とはまた別の、音楽(..という言葉がほんとうは妥当なのかどうか..)のあり方でした。

なので、そのあと、いろいろ考えたものでした。
そのことが、音楽に対するいまのわたしの態度を、作っている気がします。

民謡も、ときどきながら聴くようになってきました。

で、わたしは本の『日本民謡大観』に載っている唄を、聴く、というのはできないと思っていました。
図書館で『日本民謡大観』を見つけてから何年も経って、
あるとき、NHKFMの番組表に「日本民謡大観」とあるのを見つけて、
うれしかったです。
心ひかれて写譜した唄は、すでに放送されていて聞き逃したのか、放送されなかったのか、けっきょく聴けませんでしたが、
番組を聴いていると、唄が唄われている暮らしの場が、スピーカ越しに垣間聞こえてくるようで、
なにか大切なものに立ち会っている感じがしました。
その唄いの場と、スピーカに向かって唄を「聴く」というわたしの場との、隔たりを感じながら。

それらの録音が、ほんとうにその唄の自然な唄いの場を捕らえているのか、と考えると、
たとえば、これから録音します、と言われて、唄いが影響を被ることもあったでしょうし、
仕事唄を、その仕事をしていない別の場で唄ってもらって収録した、といったこともあったのではと思われるので、
その録音が、唄の真の姿を捕らえている、とは言い切れない感じもします。
が、
そこには、五線譜に変換された唄を読むのや、舞台で唄われる民謡を聴くのでは感じ取りにくい(...少なくともわたしには)、
その場のその方々の唄、であったその唄の姿が、
たしかに写し込まれているように思います。

『日本民謡大観』は各地の公共図書館の郷土資料コーナーなどによく置いてあります。
ただ、古い版のものには、CDはついていません。わたしが最初に見つけた本はそうでした(九州北部篇:昭和52年発行)。
新しい版も各所にあるはずですが、
で、置いてあるところを知ってもいますが、
その付録CDを聴ける所を、わたしはまだ知りません。
買おうにも、値段が58000円するので(九州北部篇)、とても買えません。
いつか聴きたいものです。

*1. 民謡研究家の町田嘉章(佳声)さんらを中心として進められたようです。
検索エンジンで「日本民謡大観」で検索すると、紹介しているページがいろいろ見つかります。
参考: http://www.mercury.ne.jp/mgc/kenkyu/mogami1.html
    http://www.nhk-book.co.jp/cgi-bin/store/list_book2.asp?m_id=19 2001年09月18日


 

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記事作成:さんちろく