23. Valse-Impromptu op.47-1
即興的ワルツ
・・さすがにこれはワルツではないような気がします。「ピアノ協奏曲イ短調」第3楽章のピアノにも出てくる低音部の動きが、むしろ野性味を感じさせます。同じ抒情小曲集第4集に入っている「メロディー」作品47の3に共通した、どこか荒涼とした感じもあります。
イントロでイ短調の曲かと思いきや、始まった主題がいきなり音階を外してよろめいて、めまぐるしく不安定な楽句が続いたあげく、花火のような音が痛烈に光り、・・と、かなり「濃い」曲です。
遠くに、ショパンのワルツop.64-2のリフレインが聞こえるような気がしないでもありません。
2003年6月19日
24. Albumblad / Albumblatt / Album-leaf op.47-2
音楽帳(アルバムのページ)
のんきで気の優しい曲です。テンポ指定は速いですが、ふわりふわり心地よく揺れている感じがします。
(「グリーグ随感随想」でも書きましたが)同時期に作曲された「ヴァイオリンソナタ第3番」の、激しい第1楽章第1主題と音型が似ているのが不思議です。
音楽の流れに身をまかせてひとときを楽しむ、グリーグ版「楽興の時」とも言えそうな、佳い曲です。
2003年6月19日
25. Melodie op.47-3
メロディー
率直に言って、このタイトルがついているのはやっぱり謎です。メロディアスというよりはむしろモーティヴィックな(短い動機を徹底して使用した)曲だと思います。【仮説:少なくともこの抒情小曲集第4集(作品47)に関するかぎり、グリーグはタイトルに意味を込めていない。】
それでも、この曲のモティーフが唄に聞こえるのも、またたしかです。ノルウェー民謡の節回し、それも言葉というより節回しそのものを唄う民謡、ステヴ stev の雰囲気を感じさせるのです。
(また、これはまったく個人的な感想ですが、この曲からはなぜか西部劇に出てくる荒野をイメージします。むしろ、まさに西部劇。・・しかしこのイメージには惑わされないでください。)
荒涼とした雰囲気がある一方で、和音など折々のニュアンスが美しい曲でもあります。その点、「孤独なさすらい人」作品43の2や、「バラード」作品65の5と相通じるものがあります。
けっこうしばしば弾かれる曲です。数ある抒情小曲集の録音の中でも特に有名なエミール・ギレリスの選集にも入っています。また、ギタリストのセゴヴィアもこれをギター用に編曲して味のある演奏を残しています。
2003年6月19日
26. Halling / Norwegischer Tanz / Norwegian dance op.47-4
ハリング(ノルウェー舞曲)
弾いているとどうしても小節が1拍ずれた感じになってしまいます。
この曲についてより詳しくお知りになりたい方は、グリーグ作曲の劇音楽「ペール・ギュント」の第1幕の音楽(組曲ではなく)をご参照ください。ハルダンゲルフィドルまたはヴィオラによる演奏が聞けます。ちなみにそれらの演奏では小節線どおりのリズムです。
2003年6月21日
27. Melancholie op.47-5
メランコリー
たしかに初めは憂うつそのものですが、明るい楽句や気持ちの高揚もあり、曲の上を流れていく情緒はなかなか複雑です。いっぽう、この曲を聴き終わった時の感じはいささか沈んだ「うつ」の感じに似ています。たぶん、この曲が「うつ」の状態を形として表現しているというよりは、この曲を聴き終わった時の感じが「うつ」的だというのが、「メランコリー」というタイトルの言わんとしているところかと思います。抒情小曲集は「聴後感」を重視しているように思われる面があります。
抒情小曲集の中でメランコリーという言葉が冠された曲はこの他に2曲あります。この曲はト短調で、他の2曲はロ短調とト短調です。ロ短調もいくらかそうですがグリーグにとってはト短調という調性はメランコリックな意味あいがあったのかもしれません。
(あるいは、ゆっくりと、ゆっくりと流れる川)
2003年6月21日
28. Springdans / Springtanz / Norwegian dance op.47-6
スプリングダンス(ノルウェー舞曲)
手がひきつる!第2弾。
13.のスプリングダンスの拡大版のような曲です。13.は抒惰小曲集第2集ですが、第2集までの抒情小曲集はかなり易しく作られていますので、それとこの曲とを比較するとこの曲のほうが難しく感じます。いわゆる「演奏効果」は、この曲のほうが派手ですから、上がりそうです。
私は指の運動をあるスピードからそれ以上に上げられません。トリルでもアルペジョでもなんでもです。昔ピアノを習っていた間に指を動かすための力の使い方を根本的にまちがって覚えてしまったのではないかと考えています。この曲を弾こうとすると、ほんとに手がひきつります。
手がひきつらない方は楽しめます。
2003年6月21日
29. Elegie op.47-7
エレジー
27.のメランコリーは下降も上昇もする曲でしたが、この曲は下降から出来ています。どちらも中間部に独特の半音階楽句が出てきますが、メランコリーのほうは上昇形、こちらは下降形です。私はこの2曲をきょうだい曲のように思います。
なぜか、笛の音のようにも感じます。この曲の途中に、「山の夕暮れ」作品68の4と共通した部分があるのですが、後者はノルウェーの伝承楽器の笛の音をもとに作られています。
抒情小曲集第4集がこの曲で閉じられるというところに、グリーグがこの曲に、そしてこの第4集の中に、何か特別な想い〔悲しみ?〕を封じ込めたかったのではないかと思いを馳せてみることもできそうです。
(悲しみは消されない。鎮まれるほかない)
2003年6月21日