54. Matrosernes Opsang / Matrosenlied / Sailor's song op.68-1
船乗りの歌
ピアノを弾くときに、スタッカート記号が付いている音符がある所で右ペダルを入れるかどうか、入れるならどう入れるか、けっこう困ることがあります。
ペダルを踏み続けると音が切れないのでスタッカートがつぶれてしまうのですが、それでも響きを豊かにしたくてペダルを踏みたいことがあります。ペダルを踏んだ状態でもスタッカートの感じは出るには出るので、音の歯切れ良さより響きの豊かさを優先してペダルを踏み続ける場合もあります。しかし、歯切れ良さもぜひ出したいこともあり、そんなときにはペダルを「スタッカート」で踏んだりもします。
「船乗りの歌」はけっこう和音的な曲で(男声合唱になりそうな曲です)響きがきれいです。スタッカートの指示もたくさん付いていて(男声合唱だと、ボン、ボン、と歌うでしょう)、弾む感じです。このニュアンスは、演奏する側は体感としてわかりますが、弾いた音にはあんがい表れないもののようです。この曲の演奏を聴くと、弾みがペダルでつぶれてしまっていたり、はねてはいるのだけれど重みがなかったりして、演奏者のもともとの解釈にもよるのでしょうが、あまり楽しくないことがあります。
演奏者が体でわかっている音楽と、リスナーが聴き知っている音楽とは、たぶんちがうのだろうな・・と思ったりします。
が、ほんとうのところ、ちがっているのかどうか、そもそも「ちがっている」とはどういうことなのか、よくわからなかったりもします。
あまり弾かれない曲のようですが、少なくとも弾き手としての私は、とても楽しく弾いています。
2003年7月12日
55. Bestemors Menuet / Grossmutters Menuett / Grandmother's minuet op.68-2
おばあさんのメヌエット
「船乗りの歌」が深い響きのスタッカートなのに対して、「おばあさんのメヌエット」は軽妙なスタッカートです(leggierissimoの指示があります)。こちらのほうは抒情小曲集の中ではけっこうよく弾かれる曲です。
さりげなく付けられたタイトルのようでありながら、けっこう深い意味もありそうに思われます。なぜ、おばあさんのメヌエットなんでしょう。邦訳も「おばあさんのメヌエット」がほぼ定訳になっているようで、「祖母のメヌエット」とかを見たことがありません。あきらかに、なにか或るイメージがあります。曲と、タイトルと、想い描かれる像とが、そのイメージのもとにひとつになっているように感じます。
グリーグがノルウェーの山小屋で出会ったイェンディーネさんという娘さんが、1972年まで御存命で、セレモニーや取材の場でグリーグについて語ったり、民謡を唄ったりなさってらっしゃったそうです。グリーグの伝記やイェンディーネさんの聞き書きの本に、すてきな民俗衣装をお召しのイェンディーネおばあさんの写真があります。「おばあさんのメヌエット」に、私は自分の祖母の姿よりはイェンディーネさんの姿を想い浮かべます。
グランマ・モーゼスの絵。
2003年7月12日
56. For dine Foedder / Zu deinen Fussen / At your feet op.68-3
あなたのそばに
ロマン派のグリーグ。
こまごま書かれたものを読むより一聴をおすすめします。選集でこの曲を入れているCDなら、それぞれの弾き手なりの思いで正しくこの曲を弾いているでしょうから、どれでもいいと思います。
左手の分散和音の音型(特に冒頭の、根音のないトニカ)が特徴あります。作品71の4「森の静かさ」も似た形をしています。
2003年7月16日
★ ★ ★
…なぜか最近、この曲の、ルバートをかけない演奏に憧れています。そういう演奏を聞くことがほとんどないのです。自分で弾くときもたっぷり歌いがちでした。それもまちがいではないと思うのですが、いま、この曲をノンシャランと弾く演奏が聴きたいです。そんな演奏は、この曲のまたちがった魅力を教えてくれそうな、そんな予感がしています。
2009年11月28日
57. Aften paa Hoejfeldet / Abend im Hochgebirge / Evening in the mountains op.68-4
山の夕暮れ
ノルウェーの山の写真は何度か見たことがあるけれど、どれも昼だった。夕暮れ時の写真は見たことがない。
無理を承知で、林間学校の山の夕暮れを重ねる。
そう無理でもない気がする。あの山の色と空の色が、この曲にはする。
2003年7月16日
58. Baadnlaat / An der Wiege / At the cradle op.68-5
ゆりかごの歌(子守唄)
ゆりかごの上で飾り羽が回りながらオルゴールが鳴る、あのおもちゃはいつごろ考え出されたのでしょうか。グリーグの「ゆりかごの歌」は、旋律はノルウェーの伝承子守唄を思わせる民俗的な旋律ですが、この曲の演奏を聴くとなぜかあのオルゴールの音を想います。あのおもちゃがあってこの曲が生まれたのか、この曲があってあのおもちゃが生まれたのか、どちらかにちがいないと思われるほどです。
ギレリスなど有名な録音はたいていゆっくりと弾いていますが、指示はallegrettoで、速めのテンポです。
ゆりかごで聴いた唄の、覚えていない記憶。ゆりかごで聴いたオルゴールの、・・
2003年7月20日
★ ★ ★
…「速めのテンポ」の件。この曲の冒頭指示は四分の四拍子、Allegretto tranquillamenteです。Allegrettoというところから「速め」と書きましたが、最近、第10集の「夏の夕べ」が同じく冒頭Allegretto tranquillamenteの指示で、メトロノームが四分音符=69となっていることを知りました(GGA:ペータース版グリーグ全集など)。「夏の夕べ」は四分の三拍子で、1拍が1秒弱ということですから、正直かなりゆっくりしたテンポ感になります。この「ゆりかごの歌」も同様と考えると、「ゆりかごの歌」もゆっくりしたテンポが適当ということになるかもしれません。
ちなみに同じ第10集の「昔々」は四分の四拍子、四分音符=63ですがAndante con motoです。AllegrettoとかAndanteとかを「速度表記」だと思ったら間違いなのかもしれません…。
2009年11月28日
59. Valse melancolique op.68-6
ゆううつなワルツ
Dの和音とAsの和音。ワルツと、ヘミオラのワルツ。高まる気分と落ちていく気分。いろいろなものが、せめぎあっている。
救いは、あるのか。いつか来るのか。それとも、救いとは知ることができないものなのか。
2003年7月20日