遠い遠い夢の世界... > 覚え書き > オカリナ・ノート 2014.1.10 オカリナの「味」

オカリナ・ノート 2014.1.10 オカリナの「味」


 ある個人工房の手になるオカリナを購入した。つい最近インターネットでその銘柄を知り、いろいろ調べてあたって幸運にも入手することができた。
 購入したのはいわゆるアルトCにあたるキーのもので、購入にあたっての試奏ではとてもいい音色だと感じた。ただ、自分がこれまで吹いてきたオカリナ(某メーカー製のものが中心)とはかなり感触が異なった。この銘柄、ネットでも感想や評価を見ることができるが、自分でも少し、気付いたことや感想を書いてみたい。もっとも、商品の宣伝や批評をする立場には自分はないと思うので、銘柄名を伏せたままちょっとした「覚え書き」として書いてみることにする。
 
 このオカリナ、試奏では高音(高い「レ・ミ・ファ」)も少なめの息でよく鳴るという印象を持ったのだけれど、低音の音高が低いと感じた。購入後あらためてじっくり吹いてみると、次のようなことに気付いた。これらはあくまで私の初期印象で、またこの銘柄全般ではなくこの個体に固有のことかもしれない。
  • 低音の音高がたしかに低い。「ふつうに」吹くと、通常の低い「ド」の運指で全音近く低い音が鳴る。息を強めると音高は上がり、「ド」の運指で「ド」が出る以上には上がる。そのように音高を息で上げると、(他のオカリナと同様に)音色が「うわずる」ように変化する。
  • 中音域(ソから高いド)は違和感を感じない。息の強弱で多少音高が変化するが、低音域ほどの変化幅はない。
  • 高音域(高いレからファ)は音を鳴らせる息の強弱の幅が狭い(これは多くのオカリナで同様だろうと思う)。その幅の中でも、少し強めに吹くと音高がぽんと上がる。所定の音高を出すための息の強弱の幅(仮に「スイートスポット」と呼ぶことにする)はけっこう狭い。
 このうち、低音域の「低さ」はかなり気になった。所定の(ふつうの)運指で低い「ド」を出すためにはけっこう息を入れなければならない。調律に何か不都合が…?とも一瞬思ったが、とりあえず、低音域を吹くには息を意識して強めに入れてみることにした。
 ところが、そうやって高音から低音までを使ってしばらく吹いていると、どの音も一定の「息量」(と言ったらいいのかよくわからないけれど、仮にそう呼ぶ)で鳴らせる、ということに気付いた。他のオカリナではふつう、低音域は少ない息で(息を弱く、息の速度を遅く、圧力を低く等々)、高音になるにしたがって息を多く(息を強く吹き込む、速度を速く、圧力を高く等々)する必要がある(私はそんなにいろいろなオカリナ品種を吹いてきたわけではないけれど、一般的にもこう言われている)。そのため、低い「ド」を吹く場合と高い「ファ」を吹く場合とでは楽器に吹き入れる息の量が大きく違う。それが私の買ったオカリナでは、低い「ド」から高い「ファ」までおおむね同じ息量で鳴る。高音域を所定の音高どおりに鳴らすには「スイートスポット」の息量を入れる必要があるが、おおむねその「スイートスポット」の息量のままで、中音域から低音域までも所定の音高を出すことができるのである。
 そのことから、これはひょっとして、このオカリナがそのように作られているのではないか?と思い始めた。どの音域でも必要な息量は(おおむね)一定。一定の息量で全音域を鳴らす。そういう楽器なのではないか?ということ。
 他のよくあるオカリナの場合、音高が高くなるほど息量が多く必要なため、音高が高くなるほど音の強さも必然的に強くなる。低音域では弱音を、高音域では強音を鳴らすことになる。しかし今回私が購入したオカリナだと、低音域でも高音域でも音の強さが主観的に(あまり)変わらない。これはひとつの特徴だと思う。私はこれまでオカリナの高音を鳴らすときにどうしても緊張してしまっていた。それは、音が強いと自分の耳に過度に響いたりまわりに気がねしてしまったりすることから来ているのではないかと思う。その点で、このオカリナの特性は個人的にとても助かる。また、低音域−弱音、高音域−強音という対応関係にとらわれる必要がないということになるので、他のオカリナでは演奏に不自然さがあった曲(たとえば高音域で弱音になる曲)にもそれなりに対応できそうである。
 ただ、低音域では息を多く吹き込んでいるため音色が「うわずり」気味で(倍音成分が強く)、全音域を通して音色が一定、というわけにはいかない(このことについて後で補足をする)。おそらく他のよくあるオカリナでは、全音域にわたって音色が均質になることが前提になっているのだろう…と、逆に思った。このオカリナはその前提に立っていないのかもしれない(私の印象から考えると)。低音域、中音域、高音域がそれぞれに独特の音色を持ちつつ、おおよそ一定の音量で鳴る。これはそういうオカリナなのではないだろうか。
 なお、息量は同じとは言っても、低音域(特に低い「ド」のあたり)ではたくさんの指を押さえて穴をほぼふさぎ切った状態で息を吹き入れるわけなので、息の「圧」は少し強めにする感じになる。口先で息を少し強く(速く)吹き入れたり、腹の圧力を強めて息を少し押し入れたりする必要がある。そのことで低音域には独特な「味」が出る。そうしたこと一切を含めて、私が購入したオカリナは独自の「味」があるオカリナであるように(いまの時点では)思う。
 
 ところで、このオカリナの低音域は息の強弱幅がかなり広い(それに対応して音程の変化幅も広い)ので、息を弱めて運指を変えるなどちょっと工夫をすれば、うわずっていない低音を出すこともできる。たとえば、弱い息で低音域を鳴らしたいときには、左手小指をちょっとだけ穴からずらして隙間を開けると、ちょうど低音の運指が通常のドレミファと一致するようにできる。そして興味深いことに、この左手小指をちょっとずらした状態のままで運指をしても、全音域でふつうにふつうの音程が出せる(この場合、息量は他のよくあるオカリナと同様に音域によって変化させる必要がある)。
 このことから考えて、このオカリナにその隙間程度の大きさの小穴を新しく開けてやれば、音色が全音域にわたってほぼそろったオカリナになるだろうと予想される。つまり、弱い息で低音域が「ふつうに」鳴り、強い息で高音域が「ふつうに」鳴るオカリナに変身するだろうと考えられる。そのかわり、そうすれば上に書いたような独特な「味」は薄まるだろう(また、高い「ファ」あたりの音がかすれるようになるかもしれない)。
 実は私が買ったオカリナは低い「ラ」の音(穴を全閉して出る音)がやや高く、低い「ラ」の音を全閉で出すには息を弱めなければならない(ちなみに、オカリナの添付説明書には低い「ラ・シ」の音の出し方は記載されていず、「サポート対象外」なのでは?とも想像している)。もしこの低い「ラ」に対応する穴(いわゆるティアーモ運指、右手人差し指の小穴)を少し大きく開けてやったら、おそらくこのオカリナは他の多くのオカリナと同じような感覚で使えるだろう。そのほうが他の多くのオカリナに慣れている人には使いやすいかもしれないし、吹くのが楽になりそうな気がする。
 ただ、いまのところ私には、それはどうももったいないことのように思われる。しばらくこのまま吹いてみて、どうしても納得できなくなったときには調整してみるとして、いまはこの状態がこのオカリナの本分なのでは?という仮説のもとに、吹き進めてみたいと思っている。
 
 私が買ったオカリナの特徴をもうひとつ書いておくと、オカリナ本体をさすると独特の「音」がする。素焼きのオカリナは手でさするとなにがしかの音がする。特に無彩色だったり塗料が薄いと音がはっきり聞こえる。イタリア・メナーリオのオカリナはニスがごく薄く塗ってあるだけで、そのソプラノGを持っているが、さすったり指を軽くこつんと当てたりするとシャラシャラチャリチャリときれいな音がする。今回私が買ったオカリナの音はとりわけはっきりしていて、楽音として聞こえるほど。たぶんこのオカリナ本体のフォルマント(固有周波数特性)がその音高あたりにまとまってあるのだろう。
 このオカリナはその独特の音色が評判になっているようだけれど、フォルマントの独特さが寄与しているのだろうと思う。たとえば、ちょっと強いタンギングをすると、パンフルートや尺八に息を強く吹き込んだような、ムラ息のような音が一瞬鳴るが、その「音」に独特の音色がある。これは息のホワイトノイズ(純なホワイトではないけれどとりあえず)のうち楽器のフォルマントに対応した成分が響いて聞こえているのだろう。
 いま私はこのタンギング音をコントロールしながら(舌がマメらない私にはちょっと難しいのだけれど)曲想を作るのを楽しんでいる。
 
 最後にもうひとつ。このオカリナを吹いていて、中〜高音域でいつのまにか右手小指と薬指がオカリナの先端をぐるりと巻いてつかんでいた。このオカリナは見た目ふしぎに先端(持って吹いている状態の右側の端)が長い。音色と内部空洞の形状との関係でこうなっているのかなと思っていた。これはとてもホールドしやすい。最近このような形状のオカリナ品種が増えてきているようだけれど、このホールドしやすさのためだろうかと想像している。
 
 オカリナは製作者ごとにさまざまな個性があり、個体ごとにも個性がある。一般的にもそう言われるが、今回あらためてそのことをひしと思った。オカリナは「あたりはずれ」が言われることが多いようだけれど、「はずれ」と思っても考え方や使い方を違えてみることで「あたり」に変わることがあるかもしれない。実はそこにオカリナの「味」があるのかも、などとちょっと考えてみる。
 

追記 2014.1.25
 うかつなことに、絶対音高を確かめていなかった。確かめたところ、上の「一定の息量」で鳴らすときにキーがB(ドイツ語でH)で、半音低かった。Cのキーまでは上がらない。冬場だから低めなのかもしれないが、それにしてもCのキーが息を強くしても出ないので、これは調律に問題があったのだと考えるほかないだろう…。
 …というふうに考えて、小穴を広げることに決めた。途中までうまくいっていたのだが、はずみで、穴の縁を欠いてしまった。破片と粉をアクリル画材のメディウムで欠けたところに接着して、遠目には目立たなくなったけれど、このオカリナも傷を負ったオカリナにしてしまった。この日のことを心しておきたい。
 現状は、息量変化をさせるふつうな吹き方でBのキーが出て、これまでのような高音域スイートスポットに当たる息量(よりやや多めの息)でCのキーが出るが最高音が(息が多すぎて)かすれる状態。もう少し穴を広げれば「ふつうの」アルトCオカリナとして使える可能性があると思うが、それは悩む。私はアンサンブルする予定はなく、またBのキーが個人的に好きなので、しばらく無理せずにこれでやっていこうかと思っているところ。
 

オカリナ・ノート インデックス
 
遠い遠い夢の世界... トップページ

さんちろく