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オカリナ・ノート 2014.1.22 傷ついた天使


 末尾に追記があります。内容を参考にされる場合は追記もご覧ください。
 
 私の立場からは「傷つけた…」と書かなければいけないのだけれど。
 
 オカリナを1つ修復している。10数年前に、県内で個人でオカリナを製作なさっている方が展示即売会を開催され、そのときに購入したもの。会場に展示されていたそのオカリナを試奏してその音色に引きずり込まれた。値札がないのが恐かったけれどお値段をおそるおそる尋ねてみると、どうも非売品のおつもりだったようで、楽器としては実用にならないけど…とおっしゃるのを、是非にとお願いして、展示品の他のオカリナにくらべて格安で譲っていただいた。
 そのオカリナはいわゆる「ソプラノF」の音域のもの。「音色が軽やかで明るい」と一般に言われているソプラノFに私は以前から憧れがあって、それまでに2つ買ったのだけれど、最初の1つはなんとキーが全音ほど低く(購入時に試奏できずわからなかった)、次の1つは息の量がたくさん必要で音がうるさく(試奏したけれどそのときのテンションで乗り切ってしまった)、どうも違和感がぬぐえないまま2番目のオカリナを吹き続けていた。そのときの展示会でもソプラノFにいいものがあれば…と思っていたところ、そのオカリナに出会った。
 そのオカリナは博多人形に使われるという土を使った素焼きの無彩色で、吹いてみると弱い息でよく鳴った。しかも、高音域でも多くの息を入れずにきれいに鳴る。音色は澄んでいてやわらかく、音のかすれもほとんど気にならず、まさに「軽やかで明るい」音色。ありきたりな形容だけれど、まるで天使のような音。これこそが自分が求めていたソプラノFだと思った。購入することができてとてもうれしかった。
 ただ購入後、実際に使うには少し手を加える必要があった。素焼きのままのまったくの無塗料なので水分をものすごく吸い、吹いていると吹き口に唇がくっついてしまう。唇を離すと唇の粘膜というか皮膚というか、とにかく剥がれてしまい、血が出てしまう。質がやわらかく、オカリナの表面をこするだけでも土の粉が出る。それで、自分で塗装してみることにした。博多人形にならって全体に胡粉を塗り、吹き口まわりには柿渋を塗った。これで粉も出ず、唇もひっつかなくなり、快適に吹くことができるようになった。それで、他のオカリナと同様に楽しんで吹き始めた。楽器として実用にならないと言われたのはこれで大丈夫だな、と、そのときは思っていた。ソフトケースに入れて外へも持ち出した。
 そうして持ち回っていたあるとき、ソフトケースからオカリナを出すと、先端(右手小指のほうの「尖った」部分)が粉々に割れていた。どこかにぶつかったかなにかだろうけれど、そんなに激しくぶつかった覚えがない。そのころ私はきちんと知らなかったが、焼き物は焼成温度が低いと強度が低く、もろいらしい。たぶんそのオカリナは低い焼成温度で焼かれたのだろう。「楽器としての実用性」の話にはこの強度のことも含まれていたのだろう。このオカリナは、実用性を削ってでも低温焼成で素焼きの特性を最大限に活かした容姿と音色を実現しようとして作られたものだったのでは…と、いまになってみて思う。
 オカリナを割ってしまってとてもショックだった。先端が壊れたオカリナを吹いてみると、音はきれいな音が鳴った。ただ音程がおかしくなってしまって、いずれにしてももう使うことはできないと思った。ひょっとして何か直す方法があるのでは…とも思ったが当時の私はどうすることもできず、ともかく割れた破片を含めてそのオカリナをそのままとっておいた。とっておいているうちに、吹き口まわりの柿渋は剥がれてしまい、胡粉の面にもひびが入り、いろいろとぼろぼろな状態になった。
 
 で、割れたオカリナを修復することができるということを最近知った。修復して使っている例や、修理品を販売している例があるようす。そこで、ベストな方法ではないかもしれないけれど、修復を試してみることにした。
 オカリナの割れた破片をセラミックペーストなるもので本体に接着し、隙間をペーストで埋める。このペーストは素焼きの状態で割れたものを接着でき、焼成することもできると聞いている。乾燥後に紙ヤスリを掛ける。セラミックペーストの出っ張った箇所を削る。胡粉を全部剥いでしまおうかとも考えたが、ひび割れ部に紙ヤスリを掛けたら目立たなくなったので、あとでひび割れ部を筆で補修しながら全体を少しずつ再塗装することにしようと思う。
 下が現状の写真。いまはまだ、傷ついた天使の姿をしている。セラミックペーストではうまく整形できなかった凸凹があり、そこは、いくらか使い慣れているアクリル画材のモデリングペーストを使って整形しようとしている。灰色に見えるのがセラミックペースト、灰色部分の白いまだらはモデリングペースト。
 
修復中のオカリナ
 
 ひととおり形が修復できたら製作者の方にお願いして再焼成していただこうかとも考えたが(そう考えていた時点ではモデリングペーストを使うつもりはなく、セラミックペーストだけで整形しようと思っていた)、このオカリナの最初のねらいだっただろう低温素焼きならではの音色を大事にして、再焼成せずに修復を終えようと思っている(再焼成で収縮してキーが上がってしまうのも避けたい)。持ち回ることは難しいかもしれないが、ハードケースを作ろうかとも考えている。このオカリナをまた鳴らすことができるということだけで、私はとても救われる気がする。傷は残り続けるのであれ、天使がまた羽ばたくことができるよう、手を掛けていきたい。
 

追記 2014.2.6
 その後、セラミックペーストの色を目立たなくしようと、削った土の粉をモデリングペーストに混ぜて塗る等の右往左往をし、けっきょくモデリングペーストは使わずに進めようと考え、モデリングペーストを削ってセラミックペーストを盛った。また、以前塗った胡粉のひび割れが修復中に目立つようになり、これも全部剥がした。胡粉は膠でなく「しょうふのり」と混ぜて団子にして使っていたのだが、柔軟性が足りなかったのかもと思う。
 このあとセラミックペーストをナイフで丁寧に削って整形し、上からジェッソを塗って、今度はチューブの胡粉を塗るつもりでいる。道はまだ遠い。
 

追記 2014.2.24
 セラミックペーストの凸凹をサンドペーパーでならし(地の素焼き部が早く削れてしまうので十分にはできなかった)、セラミックペースト部を広く覆うようにジェッソを塗り、全体にチューブ胡粉をこれまでに4度塗り重ねた。塗り始めたときは定着しなくて心配だったが、いまでは表面を擦るとてかてかするほどになった。ただ、耐水性が心配。このあとは目の細かいサンドペーパーで表面を拭い、あと数度チューブ胡粉を塗って、その上にチューブ胡粉をしょうふのりで溶いたものを塗ってみようと思う。吹き口には柿渋を薄く塗るつもり。
 

追記 2014.7.21
 修理は6月に終わった。けっきょくセラミックペーストで整形した箇所には上からジェッソを広めに塗り、市販の胡粉チューブを水で溶いたものを数度、胡粉チューブをしょうふのりで溶いたものを2〜3度塗った。吹き口には蜜蝋ワックスを塗った。それで見た目問題なく仕上がり、喜んで吹いていた。ケースには市販の食品用ポリプロピレン容器に包装用緩衝剤を詰めたものを使った。
 しかし、しばらく吹いているうちに、胡粉+しょうふのりの層がはげてきた。それはそういうことがあるかもと想定していた内だったのだけれど、やがてジェッソを下塗りしていた部分がはげ始めた。ジェッソが素地に掛かっていた部分は素地の表面からはげてへこんでしまった。またセラミックペーストで整形した部分は「ぼこぼこ」になっていた。
 なぜそのようになったのか、何か不都合があったのかいまのところわからない。セラミックペーストを焼かないで使うのがまずかったのか(「ぼこぼこ」は樹脂が収縮してセラミック成分が浮き出たように見える)、ジェッソがまずかったのか、セラミックペーストとジェッソ(と土)の相性が悪かったのか、それとも一時使ったモデリングペーストとセラミックペーストとの相性の問題なのか、いろいろ考えられる。いずれにしても、だんだん崩れていっているので、どこかの時点で少なくともジェッソ部分を丁寧に剥ぎ取り、再補修する必要があると思う。
 

 

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