所属していた大学研究室の事業で商店街の空き店舗を借りて遊び場を運営していた時期があり、その運営を手伝っていたことがある(遊び場自体は研究室から独立して現在も継続されている)。そのころ、まだこどもたちが学校から帰ってきていないお昼過ぎの時間帯など、店舗前に出している縁台(福岡のあたりでは「ばんこ」と呼ぶ)で大正琴をときどき弾いていた。大正琴はむかし私の祖母が弾いていたもので、懐メロの楽譜を引きながら自分に弾けそうな曲(歌)をいろいろ弾いていた。 大正琴を最初に弾いたとき、お隣の八百屋さんの店主さんが「あなた大正琴を弾くの?」とおっしゃった。店主さんは大正琴をもう何十年も弾いておられるとのこと。そんなすごい方の隣で大正琴を弾くとはなんとも恥ずかしかったが、弾きなさい弾きなさいとおっしゃるので、御言葉に甘えてそれからおりおり大正琴を弾くようになった。 商店街のお客さんは御年配の方が多く、私が大正琴を鳴らしていると、「あらいいねえ」とおっしゃったり、少し立ち寄っていかれる方もいらっしゃった。そのときにいろいろと話がはずみ(そのときのいろいろなことはおいおい書いてみたい)、ときには「もう使わないから」といろいろな楽器を譲り受けたりもした。その楽器を鳴らしたり、こどもたちと合奏したりもした。私が自分の学業のため商店街から退くまで、そんなふうにまちの一角で音楽を楽しんでいた。 大切にしている写真が1枚ある。そうした経緯で譲っていただいたトイピアノを弾いていて、近くにお勤めの方が私はオカリナを吹くのだけれどとおっしゃって、一緒に演奏してみることになり、まちかどで即席のアンサンブルをした。私はアンサンブルの経験がほぼゼロで、どうにかこうにか伴奏させていただいた(何を演奏したのだったか…「ふるさと」や「赤とんぼ」のような歌だったと思う)。その様子を遊び場の仲間が撮ってくれていた。その写真をときどき思い出して振り返る。 このごろになって、今度は私がオカリナを吹き始めた。まちかどというよりは公園や山や川で吹いている。それでも人がそばを行き過ぎていく隣で吹いていて、ふと、あの大正琴やトイピアノを弾いていたころが懐かしく思い出される。どこかのまちかどにあんなふうな音楽のひとときがいまあるのだろうか。そう思って、「まちかど音楽」と題して少し書きたくなった。自分が体験したまちかど音楽の思い出や比較的リアルタイムなできごとや、つれづれに思うことなど、ときどき書いてみたい。 |