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幻影 Op. 57 no.3(抒情小曲集第6集から)

グリーグのピアノ作品の楽譜は、いまでは日本語版も増えましたが、
以前は福岡では一部の有名作品しか店頭に並んでいませんでした。
全音のピアノピースで抒情小曲集の第1集の抜粋を買って、グリーグ作品は永らくそればかりを弾いていました。
何年か経って、その全音から、グリーグのピアノ作品選集が発売され、
大喜びして、すぐには買えなかったような覚えがありますが、買いました。
その時点では、エミール・ギレリスのLPをすでに買って聴いていたはずですが、
それに収録されていない曲もその選集にはいろいろ載っていて、
そんないきさつで、グリーグに関しては、自分が弾いて初めて聴いた作品が、けっこうあります。
「トロルハウゲンの結婚記念日(婚礼の日)」もそうです。

幻影 Illusion は、そんな曲のひとつでした。
抒情小曲集の第6集(作品57)の第3曲です。
全音の選集の掲載曲をひととおり弾きあさったなかで、ひときわ惹かれた曲でした。
曲はイ短調で、オクターブを成す低音の上でメロディーが6度下の音と共にとつとつと(というか、ほそぼそと)奏でられていく、地味な感じの曲なのですが、
その、ほとんど憂うつと言ってもいいような流れのなかで、
長調に転じた歌が一瞬、長7度(と短2度)を響かせるところがあり、
それがまるで、セピア色の部屋の中に青い空の光が射し込んできたみたいに、
そのころのわたしには感じられました。

(ちなみに、わたしが感じるグリーグの音楽の魅力のひとつは、そうした長7度の音程をめぐる音のうつろいです。たぶんですが。)

その、セピアと青の響きをすくいとりたくて、弾いていたのかもしれません。

書かなくてもいいことかもしれないですが、
実は、この曲については、グリーグの伝記や名曲解説本などに載っている楽曲解説で、
良く書かれているのを見たことがありません。
この曲についての記述を読むたびに気持ちがしゅんとなったものです。
でも、
あのころわたしがこの曲から感じ取っていたあの感じは、
疑い消しようがない、ほんとうな感じでした。

曲の優劣を決める価値観なるものがこの世のどこかに存在するとして、
それと、わたしが音楽に体験することごとのすばらしさとは、
別であっていい。
いまそう思うのは、そうしたあれこれを経てのことかもしれません。

グリーグの作品に関しては、
演奏にめぐまれない(と、しばしば言われるような)ことが、
楽曲の評価に影響しているのでは、と
感じるときがあります。
この曲も、いつか、だれかが、すばらしい演奏をして、
「見直される」日が来るのかもしれません。

が、
その日が来ようとこまいと、
この曲はそんなこととは関わりなく、
人を待ち続けるでしょう。

グリーグの遺した作品は、そういうものもののような気がします。


***

あまり吟味しないまま書き込んでいる感じが自分でも若干あります。
もっと短い記事をこまごまと書いていきたいです。どちらかといえば。 2001年06月12日

(2015年6月16日「トロルハウゲンの…」の曲名を改訂。詳しくはこちらの記事をご参照ください)


 

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記事作成:さんちろく