遠い遠い夢の世界... > ハルフダン・シェルルフの音楽をめぐって
 

ハルフダン・シェルルフの音楽をめぐって


このコーナーでは、19世紀ノルウェーの作曲家ハルフダン・シェルルフ(Halfdan Kjerulf: 1815-1868)の音楽をめぐって、これまでにこのサイトの自由帳などに書いたものを集めて載せます。
シェルルフの音楽については、日本語で書かれた記事があまり見つかりません。私も詳しくはないですが、シェルルフの音楽が好きなので、自分の音楽体験を書いて載せるこのサイトに、シェルルフのことをときどきぽつぽつと書いています。
シェルルフの音楽をどう自分が受け止め楽しんでいるかという個人的な話が中心ですが、シェルルフに関して自分なりに知っていることも(間違いがあるかもしれませんが)書いてあります。関心を持っておられる方々の少々の参考になればさいわいです。
新しい記事のほうが上に来ます。古い記事にある情報は現在変更されている可能性もありますのでご注意ください。自由帳の記事はシェルルフに関する以外の話を削って転載しています。


自由帳 2015年10月20日 はつらつピアノコンサート(第2信) より
 
 ...「はつらつピアノコンサート」から数日経過して、たちまち日々の事々に追われるこの頃です。...
 「はつらつピアノコンサート」は今年で10回目になるとのことで、高校生以上の年齢の方から出演者を募るというコンセプトの一般参加ロビーコンサートです。...
 私はシェルルフの「即興曲ヘ長調HK98 (op.12 no.6)」と「子守唄HK248」を弾きました(HK番号は全集版で採用されているシェルルフ作品の整理番号です)。録音を聴き返すと「子守唄」の音の粒がきれいに出ていなかったなどいろいろ反省点がありますが、そのときの自分にできるだけのことはしたような気がしています(それ以上は無理でした…)。どちらの曲もとても好きな曲で、弾いていてその時間が穏やかに幸せに感じられる曲で、この日もいい響きのピアノでいい時間を過ごすことができました。
 スタッフの方々も親身にしてくださり、出演者の方々とも楽しく話ができて、今年も参加できてよかったとあらためて思います。ありがとうございました。
 
追記:シェルルフ「即興曲」「子守唄」のmp3音ファイルを載せておきます。コンサート前日に会場のロビーピアノで自分で弾いたものです。MDで簡易マイクで録音したので、音質はご容赦ください。
即興曲(3分弱、4.0MB)
子守唄(2分弱、2.5MB)
 
***
 

自由帳 2015年10月18日 はつらつピアノコンサート(とりいそぎ第1信) より
 
 志免町の「はつらつピアノコンサート」に参加してきました。...
 
 会場でシェルルフ作品の楽譜についてご質問いただきました。その場でさっと楽譜を取り出してご覧いただいていたらよかったのですが、申し訳ございませんでした。
 「即興曲ヘ長調」は下の記事に書いたようにSchirmerの版がIMSLPで入手できます(けっこう昔の版ですが楽譜として悪いところはないように思います)。「子守唄」のほうは私は全集版以外の楽譜を知りません…。全集版については自由帳の過去記事に書いております(こちら)。12年ほど前の記事なのでいまは状況が変わっているかもしれませんが、ご参照ください。★ 追記:出版元のホームページに載っていました→こちらです。(ノルウェー語です。注文ページなのでボタン類はむやみに押さないように気を付けてください)
 今回演奏した上の2曲はこの次の記事を載せるときに音ファイルを掲載したいと思っています。「即興曲ヘ長調」はたぶんNAXOSのミュージックライブラリーでアイナル・ステーン=ノックレベルグの演奏が聴けるのではないかと思います。
 
 とりいそぎ今日はここまでで。くわしくはまた書きます。
 

自由帳 2015年10月7日 近況:シェルルフの曲を弾きます(追記あり) より
 
 昨年参加させていただいた志免町の一般参加ロビーコンサート「はつらつピアノコンサート」に今年も参加させていただくことにしました。小規模ながら参加される方々の熱意があふれるコンサートで、今年も聴きごたえがあるのではと思っています。私は今年生誕200年のハルフダン・シェルルフの小品を2曲演奏します(正味5分弱)。...
 
 「はつらつピアノコンサート」で演奏を予定している2曲のうちの1曲は「即興曲ヘ長調」です。この曲は出だしのパッセージがちょっとドビュッシーの「アラベスク第1番」の出だしに似ていて、しかもその音型が「アラベスク」と同じようにリフレインとして曲中に繰り返し登場してきますが、作曲されたのはシェルルフの「即興曲」のほうが先です(1863年に出版)。
 楽譜は、むかし自由帳に書いたことがあるMusikk-Husetシェルルフ全集版を使うつもりですが、著作権フリーの楽譜サイトIMSLPに置いてあるこの曲のSchirmer版の楽譜(op.12 no.6)といくつか違う箇所があり、Schirmer版のほうが妥当に思える箇所もあって、どちらにどのように従うか少し考えないとと思っています。
 
追記(10月9日)
 
 演奏予定のもう1曲はシェルルフ編曲『ノルウェー民謡』から第7番b「子守唄 Baadn-Laat」です。シェルルフの『ノルウェー民謡』は全部で(バリエーション含めて)42曲の民謡をピアノ曲に編曲したもので、楽譜には歌詞が添えられています。
 歌詞はノルウェー語ですが地方語(方言)で、辞書を引いてもあらかたしかわかりません。第7番bの「子守唄」は楽譜によるとヴァルドレス地方の歌とのことです。その歌詞をネットで調べていて次のページを見つけたので、載せておきます。歌詞の意味が英語で載っていて、とても助かりました。歌声もmp3で聴くことができます。きっといまでもノルウェーで歌われている「懐かしの子守唄」なのでしょう。
 
Baad'n laat - Bissam bissam baad'ne - Norwegian Children's Songs - Norway - Mama Lisa's World: Children's Songs and Rhymes from Around the World
http://www.mamalisa.com/?t=es&p=3882
 
 私があるお店の店内にいたときのことですが、どこかで聴いたような曲が、それも自分が弾いているような曲が流れてきて、何だろうと思って聴いていたら、この「子守唄」だったと思い出した、ということがありました。どなたかがこの曲を弾くのを聴いたことがまったくなかったので、とても不思議な感覚になりました。
 そのとき流れたのはたぶん、アイナル・ステーン=ノックレベルグの演奏したSIMAXレーベルのシェルルフピアノ作品全集からではなかったろうかと思います(他にこの曲の録音を知りません。私はこれは持っていません)が、BGMとしてはとてもマニアックな選曲だったように思います。
 
 なお、シェルルフには他にオリジナルのピアノ曲である「子守歌」が2曲あり(原題は"Vuggevise"と"Berceuse")、どちらもシェルルフ作品としては有名な曲のようで、とても美しい作品です。
 
***
 

自由帳 2015年9月14日 ハルフダン・シェルルフ生誕200年(その2) より
 
 3月9日の自由帳に、ノルウェーの作曲家ハルフダン・シェルルフが今年生誕200年という話を書いた。そこに書いたように、シェルルフの誕生日が資料によってけっこう違っていて、9月1日だったり15日だったり17日だったりするのだが、いずれにしても9月が誕生月なのだろうと思う。
 ウェブ検索してみると、ノルウェーでは今年の生誕200年を記念する行事がいくらか行われている様子がある。きっとシェルルフの作品がいろいろ聴けるのだろうなと思うと、遠く耳をそばだててみたい気持ちになる。
 
 今年はシェルルフの作品を弾きたいと思いつつ、あまりレパートリーを増やせていない。むかしCDだけ持っていて楽譜を持っていなかった頃に、「即興曲 Impromptu ヘ長調(HK98)」などいくつかの曲をCDを鳴らしながら採譜したことがあり、その「即興曲」ともう1つ「即興曲変ホ長調(HK36)」は今年おさらいをして弾けるようになった(シェルルフのピアノ作品で「即興曲」というタイトルのものは3曲ある)。またノルウェー民謡編曲集の第7曲「子守唄」も以前から好きで、おりおり弾いている。今年に入って「スケルツォホ長調(HK109)」に取り組んでみたが、まだ弾けるようになっていない。
 今年はステージに立つ予定がもうなく、ロビーでシェルルフの作品を弾いている。福岡初演だろうな…などと思いつつ。先日は「即興曲ヘ長調」を弾いたが、その間じゅう、こどもさんが後ろで聴いてくれていたようで、曲が終わって(自分にとってはめずらしく)拍手をいただいて嬉しかった。この曲を弾き出すとロビーの雰囲気がちょっと変わるのが感じられる。あっ音楽を演奏しているな、という、視線と言うか「聴線」みたいなものがこちらに向けられるのを感じる。それだけにこちらの緊張もあるのだけれど、曲そのものがその緊張をゆるやかに解いてくれる。
 ロビーにもそうたびたび出向いているわけではなく、今年あと何回かぐらいだと思う。たいしたお祝いにならないけれど、この機会を楽しんで弾きたい。
 
***
 

自由帳 2015年3月9日 今年はハルフダン・シェルルフ生誕200年 より
 
 このあいだCDのパッケージを見ていて気付いたのだが、今年2015年はノルウェーの作曲家ハルフダン・シェルルフ Halfdan Kjerulf(1815-1868)の生誕200年にあたる。誕生日が資料によっていろいろ違うのだが、どうも9月らしい。
 シェルルフについてはたまにここで書くことがあったけれど、ウェブ検索しても日本語で書かれたものがわずかしか見当たらないので、シェルルフをめぐってまとまりなくいろいろ書いてみようと思う。
 
 シェルルフを知ったのはまったくたまたまで、もう20年くらい前、CDショップのワゴンセールでシェルルフのピアノ曲と男声合唱曲が収録されているCDを見たのだった。NKFというノルウェーのクラシック作曲家を紹介するレーベルで、そのレーベルから出ているのでノルウェーの人だということはわかったのだが、作風などはまったく知らず、ただグリーグよりも年長なことと作品名にノルウェー民謡の名前が並んでいたことから、ちょっと興味を引かれてCDを購入した。これがとてもよかった。1曲目のピアノ曲「牧歌」からすっかり惹き込まれてしまった。
 「牧歌 Idyl」は冒頭に清冽なアルペジオが鳴るイ長調の爽やかな曲で、演奏のヤン・ヘンリク・カイセル Jan Henrik Kayser のタッチが曲の鮮やかさを引き立てていて、とても強い印象を受けた。収録されていたピアノ曲は一言で言うとロマンティックなキャラクターピースだが、どれも清清しい筆致で、響きが美しく、(こういうキャッチフレーズを使わないようにしているのだがほんとうに)「北の抒情」を感じさせる音楽だった。またノルウェーの民俗舞曲や民謡を題材にした曲も入っていて、グリーグよりも早い時代にノルウェーにそうしたピアノ作品が生まれていたのを知り、興味深く思った。男声合唱曲は端正で豪快で、ノルウェーで長く培われてきたという合唱の伝統を感じさせる作品・演奏だった(…あまり親しんでいない分野なので上滑りなことを書いた)。
 その1年ほど後に、やはりCDショップの店頭で、今度はシェルルフのピアノ曲を特集したCDが新着の棚にあるのを見た。やはりノルウェーのレーベルであるVNPから出たもので、一目見て即決購入した。演奏は以前に演奏をラジオで聴いて好きになっていたアウドゥン・カイセル Audun Kayser で(このCDで初めて正確な名前を知った)、通して聴いて、ほんとうにいい買い物をしたと思った。おりおり聴き返している。
 なのでかれこれ20年ほどシェルルフの音楽をたのしんでいる。聴いたり弾いたりするごとに気持ちが落ち着きあらたまる感じがする。昔なじみの、ということもあるけれど、シェルルフの音楽がそのような穏やかさを基調とした音楽となっていることもきっとあると思う。
 
 シェルルフは1815年生まれということなので、シューマン・ショパン・メンデルスゾーン・リストらよりわずかに年下ということになる。もともと法律家になるライフコースを歩んでいたが、体を壊したことと家族を相次いで亡くしたことなどからその道を断念して新聞社に勤めるようになり、しかし幼少の頃から音楽が好きで、30歳を過ぎてから音楽の道を選び直し、35歳の年にライプツッヒで学び、ノルウェーに戻って主に音楽教師として活躍したとのこと。作曲家として残した作品は、歌曲・合唱曲がノルウェーでは知られているそうで、ピアノ曲も数十曲ある。作風は初期ドイツロマン派の影響を強く受けているが、いっぽうでノルウェーの民謡・民俗音楽に対する関心が強く、作品に民俗的な要素が多く取り入れられている…というふうなことがCDのブックレットやウィキペディアなどに書いてある。もう少し詳しい伝記がノルウェーの事典サイトにある。(Halfdan Kjerulf - Norsk biografisk leksikon http://nbl.snl.no/Halfdan_Kjerulf )
 シェルルフが残したピアノ曲はほとんどが3分台に満たない小曲で(シェルルフには自身の手になるオーケストラ作品はないようで、ピアノ作品にもソナタなど大規模なものは見当たらない)、全般的にはメンデルスゾーンの無言歌に似ている印象を受ける。ただ、上に書いた「牧歌」などいろいろな曲でノルウェーの民俗音楽、特に舞曲を思わせるフレーズが聞こえる。そしてそれが唐突でなく、ごく自然に聞こえる。シェルルフがどのような理由でノルウェー伝承音楽に関心を持っていたのかは資料を読んでもよくわからないのだが(もしシェルルフを「国民楽派」と位置付けるなら、活動時期の上ではグリンカやダルゴムイシスキーらに続くかなり初期の国民楽派ということになる)、作品に気負いがなく、ドイツ的な音楽の伝統とノルウェーの民俗的伝統とがすんなりと1つになっている印象を受ける。サロン的と言えば言えそうな作風だが、その面から見てもとても「きれいな」音楽になっていて、無理をして音楽を身に付けたようなところがまったく感じられない。
 メンデルスゾーンの無言歌と違うのは、ほとんどの曲にいちおうのタイトルがあり、またノルウェーの舞曲をはじめとした国内外の舞曲のリズムを活かした曲が多いところ。そのあたり、後で書くけれどグリーグのピアノ作品との共通性がある。またこれはシェルルフの音楽の特徴のように感じるのだけれど、形式感というか構築感がやや薄く(形式上は三部形式の曲が多いが)はっきりとした起承転結がなさげな曲や、特に終結がぼんやりと終わってゆく曲が多い印象がある。フォルテで始まるのにピアニシモで終わる曲、フォルテでトニカの和音を鳴らした後に弱音をちょっと鳴らして終わる曲、新規な楽想を導入して終わってゆく曲…。メンデルスゾーンの無言歌やグリーグの抒情小曲集は形式がはっきりしていて1曲としての完結性が高く、またしっかりと終結する印象があるのだが、シェルルフのピアノ曲はふんわりと流れていってふんわりと終わり、えっここで終わるの?と思わせる、まだ続きがありそうな聴後感がある。これは演奏時間数分ほどのピアノ小品としては弱味のようでもあるけれど、私はシェルルフがそうした音楽を目指していたような気もしている。
 
 また興味深いのは、シェルルフが晩年にノルウェーの民俗舞曲と民謡のピアノ編曲作品を手掛けていて、それが後のグリーグの作品を強く連想させるところである。
 グリーグは1869年から1870年にかけ、ノルウェーの音楽家ルードヴィグ・マティアス・リンデマン(リンネマン) Ludvig Mathias Lindeman が収集したノルウェーの民俗音楽をもとにして、ピアノ作品『25のノルウェー舞曲と民謡』op.17をまとめている(1870年出版)が、シェルルフはそれに先立つ1861年に、やはりリンデマンらの収集した民俗曲をもとに、ちょうど同じく25曲からなる『ノルウェー舞曲』を出版している。このシェルルフの『ノルウェー舞曲』を聴くと、グリーグの『ノルウェー舞曲と民謡』よりは編曲が素朴な印象を受けるものの、知らずに聴けばグリーグ作品と区別ができないのではと思われるほど雰囲気が似ていて(もとが民俗舞曲だからということもあるかもしれないが)、一部の曲はグリーグ晩年の作品『スロッテル』op.72のような斬新な響きを持っている。シェルルフはその後1867年に、今度は民謡のピアノ編曲作品を出版している。グリーグがこれらのシェルルフの作品を知っていて、その影響下で『25のノルウェー舞曲と民謡』をまとめたのはまちがいないと思う。
 グリーグはシェルルフからの影響についてあまり語っていないようだが(それもそうだろうと思うが)、たとえば『抒情小曲集』も、特に初期のものは、形式も音楽内容もシェルルフのピアノ作品と類似したものがあり、グリーグがシェルルフの作品を意識しながら自分のスタイルを確立していったのではとも考えられそう(グリーグの初期作品に対してはしばしば、シューマンやメンデルスゾーンの影響が言われるのだが、またそう言われるのもグリーグが受けてきた音楽教育や聴いてきたはずの音楽を考えるとうなずけるのだが、印象で言うとグリーグの初期作品はシューマンやメンデルスゾーンよりもシェルルフの作品に似ている)。ちなみに、グリーグの抒情小曲集第6集に、グリーグが若い頃一時期アドバイスを受けたことがあるデンマークの作曲家ニルス・ゲーゼ Nils Gade の名前を冠した「ゲーゼ」という曲があるが、この曲の旋律の冒頭部分はシェルルフのピアノ曲「ノットゥルノ」の旋律冒頭とほとんど同じで、しかもどちらもイ長調である。
 そんなこんなで、シェルルフの音楽はグリーグの音楽との関連からも興味を引くものがある。ただ、せっかくの生誕200年ということで、今年はグリーグとはあまり絡めずにシェルルフ自身に関心を向けてみたいと思う。
 
 シェルルフの作品はこれまでいくらかCD化されていて(上に書いたNKFとVNPの他にもノルウェーのレーベルからいくつか出ている)、いまは「音源」としてネットから聴くことができる。いっぽうで楽譜は、出版されている現行譜がほとんど見つからない。私は以前、シェルルフの作品を自分で弾いてみたいと思い、「耳コピー」を試みながら、楽譜をだいぶ手間かけて探して、シェルルフの作品全集が過去に刊行されていたのを知り、出版社に直接発注して入手した(この「自由帳」にそのことを書いたことがある)。この全集は、シェルルフの研究を手掛けているニルス・グリンデ Nils Grinde の編集になるもので、校訂報告が載っているなど「原典版」的な楽譜になっている(解説はノルウェー語)。
 いまでは、昔に出版された著作権フリーな楽譜を載せているIMSLPというサイトでシェルルフの作品のいくらかをダウンロードすることができる。それを読んでみると、全集版といろいろな食い違いが見つかる。IMSLPに載っているシェルルフのピアノ作品の出版譜は最初の刊行時のものとは出版社が異なるようで、原稿がどこから来たものかなどがわからず、信頼性の点でちょっと何とも言えない面がある。ただ、全集版よりもその出版譜のほうが音楽的に詳しかったり妥当に思えたりする箇所がいくらかあり、全集版がページをかなり節約している様子もあることから、全集版だけに頼ってだいじょうぶなのかな…という感覚も残る。そのあたりを丁寧に考え扱いながら、楽譜を読んでいく必要がありそうではある。
 
 このところ心身いたんでいて、静かな音楽を聴くようになっている。いろいろとCDを聴いているうちに、シェルルフが聴きたくなって、シェルルフの作品の中でもとりわけ穏やかな「スケッチ Skizze 2」を聴いた。この曲は全集版では1ページだけのゆっくりした曲で、変ロ長調のシンプルなメロディーがシェルルフならではの分散和音に支えられ、色合いある陰を伴って移ろっていく。大きな盛り上がりも大きな沈み込みもはっきりした終結感もなく、そっと始まってそおっと終わってゆく。いい意味でとてもシェルルフらしい作品だと思う。あらためて聴いて、ここから遠いどこへも運ばれることなく、ここにいて気持ちが静かにあらたまる感じがした。
 せっかく生誕200年を知ったので、今年はシェルルフの作品に触れる時間を持ちたいと思う。そのうちピアノリレーマラソンの募集も始まるし、シェルルフの曲を弾こうと考えたことも何度もあったので今年は弾いてみようかとも思う。ステージで弾くにはどの曲もぼんやりと終わってしまいそうなのが難しいけれど(また今年は現代曲を乗せたいとも思ってきた…)、そこも含めて少し考えてみたい。
 
(なお、シェルルフの日本語表記は「シャルルフ」「シャルウルフ」「チェルルフ」などいくつかあるようで、私も発音を知らない。家系がデンマークの出身でもともとはKierulfと綴り、一家がノルウェーに移住してKjerulfの綴りに変えたという話が伝わっている。自分が勉強したように発音するなら上に挙げたいろいろな呼び方の中間になりそうな気がする…、と書いたところで、いろいろな言語の発音をネイティブのボランティアが録音して聞かせてくれるサイトがあるのを思い出した。http://ja.forvo.com/ ここで"kierulf"で調べると、やはり中間の感じ。先入観なしで書くと「チェールルフ」という感じ。ただ、kje(r)の発音は地域差・個人差があるのではと思う。halfdanのほうは「ハルフダン」に聞こえる)  
 
***
 

自由帳 2013年10月1日 「憾」ページ追加ほか より
 
 9月はなるべくピアノを弾くようにしていました。グリーグの「夏の夕べ」はなかなか奥深く、解釈が固まりません。そのぶん日々いろいろと楽しむことができました。今日(昨日)はシェルルフ(グリーグよりひと世代前のノルウェーの作曲家)の曲をつまみ弾きしました。シェルルフの作品は概して穏やかで、曲によってはめだったクライマックスがないこともあるのですが、その穏やかさが今日は幸せに感じられました。
 今月からバタバタしそうで、ピアノもあまり弾けなくなりそうです。弾けるときに楽しむ気持ちを忘れずにいられればと思います。
 
***
 

自由帳 2003年6月2日 より
 
 ハルフダン・シェルルフのピアノ曲全集の楽譜を入手しました。
 ノルウェーの楽譜出版社 Musikk-Husets Forlag A/S がシェルルフの作品全集(全5巻)を出しているのがネット検索でわかったので(それがわかるまでに手間どりました・・)、メールで見積もりを頼み、注文したところすぐ送ってくれました。
 これまではCDから自分で採譜したのをもとに弾いてましたが(荒技)、譜を見るとやはり書き留められなかった音が多々ありました。練習し直しです。
 シェルルフ全集に関心をお持ちの方のために、問いあわせ先を載せておきます。カードや国際送金為替での支払いを受け付けるそうです:
Musikk-Husets Forlag A/S
Postboks 822 Sentrum 0104 OSLO Norway
e-mail: osloあっとまーくmusikk-huset.no

2003年6月2日

自由帳 2003年5月9日 より
 
夏の恒例のピアノリレーマラソンで、グリーグより少し前の世代のノルウェーの作曲家、ハルフダン・シェルルフ(シャルウルフ) Halfdan Kjerulf の小品を弾こうと考えています。
CDで聴いている好きな曲です。
が、楽譜をまだ持っていません。
これからどうなることかと自分でも思っています。
2003年5月9日

 


遠い遠い夢の世界... トップページ

さんちろく